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院長のコラム

院長 毛呂文紀

こんにちは、毛呂です。

先日封切の「蝉しぐれ」を観てきました。物語の舞台は僕の故郷である現在の山形県鶴岡市です。江戸時代は庄内藩と呼ばれていましたが、物語の中では海坂藩となっています。今でも鶴岡、酒田付近いわゆる山形県の日本海側は「庄内地方」と呼ばれております(反対側の山形市側は「内陸地方」と呼んでいます)。原作は庄内出身の藤沢周平さんです。これまで山田洋二監督が「たそがれ清兵衛」「隠し剣鬼の爪」の二作品を手掛けていますが、最近では藤沢モノは三作目ということになります。監督は黒土三男さんです。

全般にとても綺麗な映像で、しかも豪華なキャスト陣で日本の古きよき美しさを描いた秀作だったように思います。しかしながら、鶴岡出身の僕としましては、山田監督作品の様な庄内弁」を使った、徹底したリアリズム追求型映画を観る前に少々期待しておりましたので、最終的には「もったいないなあ」という感想を持ちました。しかしながら、黒土監督は山田監督とは違った視点、撮り方でこの映画を創りたかったのだと思いますし、それで成功している部分もあると思うのでこれはあくまでも僕の主観です。

最初「たそがれ清兵衛」を観た時は、なんともいえないあの庄内弁のイントネーションや間や言い回しに、ネイティヴ(笑)の僕としましてはもう涙が止まらない状態になってしまいました(方言指導は山崎誠助さんでしたが、さすがです)。ほんのささいな言い回しではあるのですが(おそらく庄内弁を知らない人が見ても何も感じないところなのでしょう)、庄内弁ネイティヴの琴線に触れてしまう程のリアリティに本当に感激しました。言葉の持つ空気感というのでしょうか、あの物語は庄内の風景の中で庄内弁で庄内の人間像を描いてこそ成り立つような気がするのです。

それから「隠し剣鬼の爪」の冒頭の「雪」にも驚きました。「随分と良いタイミングで(ロケをして)鶴岡の雪景色を撮ったなあ」と思っていたのですが実はあれはセットだったのです。あの状態の雪を僕達は「ボタ雪」と言っていますが、庄内の雪はまさしくあれであって、粉雪ではおかしいのです。山田監督はそれを知っていて、わざと普段使うよりも大き目の雪を使ったと聞いております、恐れ入りました。

言葉に関して言うと、例えば、大阪の物語を大阪で標準語でやった場合、大阪の人はおそらく違和感を感じるのと同じだと思います。こういうことは意外と多くあって、特に映画や舞台の世界では多いように思います。以前「ブラックレイン」というアメリカの映画がありました。マイケルダグラス、高倉健、松田優作と豪華なキャストだったのですが、日本人が見ると相当違和感を感じる内容だったのではないでしょうか。 舞台でも海外のものを日本人が日本語でやると実際はかなり違ったものになっているような気もします。もちろん、こういうものが総じて悪いとは決して言うつもりはありません。例えば、先日「プロデューサーズ」(フジテレビ)というミュージカルを観たのですがこれは最高に面白い舞台で、全部「日本人、日本語」でしたが完成度もかなり高かったように思います。

どうもいろいろ見ているとこの風潮は製作会社の方針でもあるようです。「たそがれ清兵衛」や「隠し剣鬼の爪」を作った松竹は昔ながらの映画職人気質なのに対し、「蝉しぐれ」の東宝はどちらかというとアイドル路線?の様な気もします。東宝の映画を批判するわけではありません、これは単に好みの問題ですので誤解のありませんように。東宝の舞台「レ・ミゼラブル」も素晴らしい舞台なのですが(特に岡幸次郎さんやシルビアグラブさん、石井一孝さん、は秀逸です)、若手ゲストやアンサンブルの質がどうも低下しているように感じます、それゆえに舞台全体の完成度に疑問を持ってしまうのです。あれも「もったいない」のです。せっかくの題材なのだからもっと舞台全体としての完成度を追求して欲しいのです。最初の頃はもっと違った緊張感があって良かった、という話も聞いた事がありますが…。でも、これが日本の文化芸術の現状なのかなあと妙に納得してしまうところでもあります。一方、山田監督の映画は徹底的なリアリズムで観るものを圧倒し、題材は過去のものですがむしろ「新しい日本の時代劇映画」を我々に見せてくれたように思います。これは僕にとって大変嬉しいことでした。

先日、山田監督が藤沢作品の三作目の製作発表をしました。主演はなんと「キムタク」です。キムタクが庄内弁で時代劇をやる日が来るとは夢にも思いませんでした。今からとても楽しみです(また泣いてしまうかも知れません)。

さて、藤沢作品をまだご覧になっていない方の為にリンクを張っておきましたのでどうぞご活用下さい。

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